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「安い服 しわ寄せ働く人に」

 ある新聞に次のような記事(注①)があった。見出しは次のようである。
 「安い服 しわ寄せ働く人に」
 「低コスト・大量生産が支え
  低賃金・長時間労働強いる」
 ……読むとすぐ、論壇時評「観光客と留学生 『安くておいしい国』の限界」(注②)の記事を思い出した。

 この記事の前文(リード)は次の通り。
「多くの新品の服が売れ残り、廃棄されている(注③)。背景には、流行を追いかけ、より安く大量に供給する衣料市場の現状がある。その影響は、国内の製造現場で働く人の暮らしも脅かしている。」
 以下もこの記事からの引用である。
 「経済産業省が<2018年>6月に公表した資料(注④)によると、国内の衣料品の供給量はバブル期の約20億点から20年で約40億点に倍増した。一方、家計の衣料品の購入単価は約6割に減った。競争が激しくなり、メーカーは費用を抑えようと人件費の安いバングラデシュなどに発注するようになった。」
 「国内を代表するアパレル産地の愛知・岐阜両県にまたがる名岐(めいぎ)地区では、生産の海外化のあおりで縫製業者が激減した。いま、残る工場の主な働き手となっているのは中国や東南アジア出身の技能実習生だ。」「服の価格が安くなり、メーカーが要求する加工賃では低賃金の実習生でないと立ち行かない」という。
 3年前に来日したベトナム出身の実習生の女性(32)は、「……連日、朝8時前から夜10時過ぎまで残業して働いた。休みは月に2、3日しかなかった」と泣きながら語っている。彼女の凄惨な労働環境は、この記事を読んで欲しい。
 「名岐地区で縫製業を営む男性は工場経営の厳しさを明かす。昨年(2017年)、労働基準監督署から最低賃金違反を指摘された。当時、実習生に払っていた賃金は時給換算で約400円。繁忙期には残業は月200時間に及んだ。」残業が月200時間!これでは、いつ過労死してもおかしくない。「男性の工場は、『振り屋』と呼ばれる中間業者から衣料品メーカーの下請けとして受注していたが、メーカーが海外に発注するようになって仕事が激減した。『メーカーも消費者も、ものつくりにどれだけのコストがかかるのか考えてほしい。服の値段が安くなる陰で、誰かが泣いている』」と。
 「『ファッション・ビジネス』という言葉を日本に紹介した尾原蓉子(おはらようこ)さんは『安い商品を大量に作り、大量廃棄する手法をいつまでも続けることはできない……』」と指摘している。

 賃金の安い国と「同じ土俵」で戦うことは、日本ではもうできなくなっている。私たちの身の回りの製品は、近隣諸国だけでなく、東南アジアや南アジアで生産されているものばかりだ。日本国内ではすでに、いろいろなモノを生産しなくなっている(つくることができなくなっている)。産業構造の転換はたやすくはなく、企業も生き残るのに必死だ。
バブル崩壊以降、日本企業の海外進出は加速し、本来あるはずの国内の雇用を減らした。いっぽう日本に残った企業は、政府のいう「多様な働き方」「働き方改革」の推進と相俟って、国内で「安い」商品をつくるため、技能実習生の雇用や日本人の非正規雇用を増大させた(注⑤)。「安い服」の「しわ寄せ」は、「働く人に向かい」、「低賃金と長時間労働を強いる」。品質もよく、価格も安い商品を買うのは当然のことだ。ただ時には、商品の「適正な価格」とは何か、ということも考えてみたいものだ。

 法政大学総長田中優子氏は、「江戸時代には、新品の着物を呉服屋で仕立てるのは富裕層だけ」だった、という。「古着市場が大きく、古着店から行商まで、いろんなタイプの古着屋がいました。購入された古着は何十年にもわたって、さまざまな用途に使いまわされ」ていた。「今後の日本がめざすべき循環型社会のモデルが、江戸の着物社会にあるように思っていたのですが、実は若い人の間でそうした動きが始まっている……。メルカリで売買し、お直して着ることにも慣れている人が増えている」のだという(注⑥)。
 「服が安く買える社会」は、私たちの生活や商品生産のありようも問うている。

<注>
①朝日新聞、2018年7月3日
②朝日新聞、2018年5月31日
③「捨てられる新品の服」は「年10億点」にもなる(注①より)。食品の場合はどうか。「いま、日本では、食べられるのに捨てられてしまっている食品(食品ロス)が、年間で642万トンもあります。これは、国連が食糧難に苦しむ国々に援助している総量(320万トン)のおよそ2倍です。背景には、『必要な量』よりも多くの食品を生産することが当たり前になってしまっているという実態があります。スーパーなどの小売店は、棚に並んだ食品を切らさないように、こまめに卸売やメーカーに注文しています。その注文にきちんと応えるために、卸売やメーカーでは常に余裕をもって在庫を抱えていることが多いのです。その結果、賞味期限が近づいて、廃棄されてしまう食品が多くあることがわかっています。」(経済産業省「642万トンの食品が廃棄」より)
④資料とは、経済産業省「繊維産業の課題と経済産業省の取組」(平成30年6月)のこと。
⑤日本の非正規雇用(役員を除く)の割合は4割近くにも達している(2017年)。男女では37%、男性で28%、女性で55%になる。また、「正社員で働く機会がなく、非正規雇用で働いている者(不本意非正規)の割合は、非正規雇用労働者全体の14.3%(平成29年平均)となってい」る。25歳から34歳で見ると、およそ57万人、22.4%になる(厚労省「非正規雇用の現状と課題」平成29年度能力開発基本調査より)。だが、この数値(「不本意非正規」の割合)は現状を正しく反映しているのだろうか。人出不足というが、必要なのは非正規雇用労働者と外国人の技能実習生ばかりであろう。
⑥朝日新聞、耕論「服が安く買える社会で」(2018年7月5日)より。
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