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あなたは自分の老後を誰に託しますか③④

③「未来」を食いつぶす日本

 2019年度一般会計の予算案を見てみよう(注①)。
2019年度予算案の構成2020032901
 1年間の収入(歳入)は、借金(新規国債)を除くと約69兆円(税収+税外収入)。ところが、借金(新規国債)は約33兆円もしている。いっぽう1年間の支出(歳出)は、借金の返済(国債費)を除くと約78兆円。借金の返済(国債費)に約24兆円あてているが、この中には多額の「利息の利払い」(国債利払い費の約9兆円)が含まれている。話を簡略にするため、補正予算などは今は考慮しない。1年間の収入(歳入)のうち約3分の1が借金で、1年間の支出(歳出)のうち約4分の1が借金の返済に充てられている。国債利払い費の約9兆円を含めて約24兆円返済したが、新たに約33兆円の借金をするので、借金残高(長期債務残高)は増えるばかりだ。

 日本銀行がこの「6年間に買い増した国債は約350兆円。年平均約58兆円にのぼる。国債とは政府の借金証文だ。日銀がそれを買い上げるということは、紙幣を刷って(電子データ発行も含め)政府の財政赤字を穴埋めしているのも同じだ。
 政府の毎年度の一般会計税収は約60兆円。日銀は輪転機を回し、それに匹敵する規模の歳入を埋め合わせている。おかげで私たち国民は、本来支払うべき税金を半分払うだけですんでいる。こんなありがたい状態が永久に続けられるなら、これほど楽なことはない。」(注②)もちろん借金の返済の大部分は子や孫の世代が支払うことになる。

 1年間の収入(歳入)のうち、6割程度しか税金(税収)で賄っておらず、あとはほとんど借金(新規国債発行)をしている。社会保障費と借金の元利返済(国債費)に約58兆円も支出していれば、必要なところにじゅうぶんなお金を回すことは難しくなる。事実、日本の国内総生産(GDP)に占める教育機関への公的支出の割合は、比較可能なOECD加盟34か国のなかで最下位(2015年。日本経済新聞2018年9月12日)。さらに今後、「国+地方」の借金(長期債務残高、約1122兆円)を返済していかなければならない(2019年度末、政府案)。3人家族なら、およそ2700万円も借金があることになる。「日本は未来を食い潰している」のも同然だ。
 もし将来、財政破綻により円が価値を失うようなことがあれば、ただちに私たちは現金や預金などの金融資産の大部分を失うことになる。もちろん、国はバンザイだ。猛烈なインフレにより、国の借金は帳消しになるからだ。もちろんこれは、太平洋戦争直後に日本が経験したこと。物価は戦争末期から高騰していたが、敗戦直後から1949年までに「小売物価は79倍、卸売物価は60倍」に跳ね上がり(注③)、1円紙幣は「アルミ貨」(1円硬貨)になってしまった。そして戦時中の巨額の借金(軍事費)は帳消しになった(注④)。

 2019年度の一般会計案を見ると、支出(歳出)では国の政治に必要なお金(政策経費)約78兆円のうち、社会保障費に約34兆円をあてている。これから高齢化はますます進展するため、医療・介護・年金などを維持しようとすれば、ますます社会保障費を増額しなければならない。いっぽう生産年齢人口が減少するため税収は減少する。ほんとうに日本の財政は大丈夫だろうか。

 そもそも政府は、経済の停滞を解消する方策として、大量の国債発行に依存しすぎた。そして企業も国民も、政府の経済対策に期待しすぎた。だがこうした財政出動はじゅうぶんな効果をもたらすことができなかったばかりか、戦後最悪の財政悪化をもたらした。もともと企業も国民も、みずからの発想と努力によって、平成時代の経済停滞から脱出すべきであった。

 夕張市は2006年、日本で唯一「財政破綻」し、事実上国の管理下に置かれた。この夕張市(財政再生団体)でおきていることが、将来の日本の姿であるのかもしれない(注⑤)。私たちは、夕張市の「経験」からたくさん学ぶことがある。

<注>
①表はJIJI.COMの記事を簡略にしてある。数値は2018年12月21日掲載時のもの。財務省主計局「我が国の財政事情(平成31年度予算政府案)」(2019年1月、PDF)も参考にした。
②朝日新聞、2019年5月15日
③久保田晃、桐村英一郎『昭和経済60年』1987年
④ゆるやかでもインフレがすすめば、国の借金はその分だけ目減りする。だから、国は事実上の「インフレ政策」をやめられない。金利も上げられない。金利が上がれば、国債の「利払い」の増加により国の借金(長期債務残高)が激増するからだ。もちろん国民は金融機関の利子を期待できない。
⑤NHKスペシャル取材班『縮小ニッポンの衝撃』2017年


④政府(金融庁)は国民に老後に備え「自助」(自助努力)を呼びかけている

 金融庁は2019年5月、「人生100年といわれる超高齢化社会を迎え」、国民に「老後の生活費」を蓄えるように呼びかける報告書(案)をまとめた(注①)。
 「金融庁が高齢化社会で個人の資産形成を訴える背景には、公的年金の縮小が将来避けられない現状がある。高齢者が増える一方で、働く世代が今後急減する。……『公的年金だけでは満足な生活水準に届かない可能性がある』と公助の限界を認めている」(注②)。
 公的年金と言われても、厚生年金ではなく、国民年金(基礎年金)だけの場合、極めて少額の給付しかない。ちなみに、基礎年金は「満額」の場合(保険料を40年間納めた場合)、2019年度は月額換算で6万5008円(日本年金機構のHPより計算)。厚労省年金局の発表によると、2016年度では基礎年金の「平均」(月額換算)は5万5464円であった。
 
 金融庁はさらに次のように国民に訴えている。
 「高齢期は、資産の計画的な取り崩しを考えるとともに、取引先の金融機関を絞ったり、要介護など心身が衰えた場合にお金の管理をだれに任せるかなどを考えたりしておくこと……。」「認知症になった場合にも生活を維持できるよう、お金の管理を親族や成年後見人らに任せること……。」また「資産寿命を延ばしたい顧客の要望にこたえるため、金融機関」は、「商品のわかりやすい説明や手数料の明確化」をすること(以上の引用は注③による)。
 もちろん金融庁の狙いは「貯蓄から投資へ」の呼びかけにある。

 こんにち、日本銀行による国債の大量購入など(「異次元金融緩和」)により、金利が異常に低くなっている。だから金融機関は金利(利ざや)では稼げない。そこで、投資商品(外貨預金や外貨建て生命保険、投資信託など)の手数料で儲けようとする。気がつけば、じゅうぶんな説明がないまま、ぼうだいな手数料を支払うことになる、こともある(注④)。「リスク」をじゅうぶん理解したうえで、投資をすることが大切だ。金融庁に「資産形成」と言われてもそう簡単なことではない。ある意味、日銀の異次元金融緩和政策は、金融機関にも国民にも犠牲を強いていると言える。

 もっと深刻なのは、非正規で働いている人たちだ。「非正規雇用や失業、無業に長く置かれた若者」は、「困窮状態から抜け出せなくなる」という(注⑤)。つまり、「やり直し」がとてもききにくい社会だということ(注⑥)。「起業」などができればよいのだが、じゅうぶんな蓄えもなく、年金もあてにできないのなら、老後をどのように迎えればよいのだろうか(注⑦)。

 それでは、財政が赤字というのなら、消費税を上げればすむのか。なにより消費税を上げなければ、国民は助かる。政治家は「消費税を上げない」と選挙で訴えれば当選しやすくなる(そんな選挙が過去2度もあった)。未来のことを考えなければ、こんなに「いい」ことはない。だが、これでは子や孫の世代にツケをまわすだけだ。
 今の税制度には大きな欠陥がある。消費税を上げるとしても、その欠陥を是正してからだろう(注⑧)。また同時に、財政の大幅な見直しが必要。ただ、巨額の財政赤字体質を是正するのは、そうたやすいことではない。

 もちろん老後の生活を「公助」(公的年金など)だけに頼ることはできない。「自助」(自助努力)や「共助」(地域や近隣などの助け合い、互助)なども含めて、自分たちの「老後」に備えるしかない。ただ、年金の範囲内で暮らさざるを得ない人も多い。貯蓄額の多寡にかかわらず安心して老後を暮らせる社会を目指さなければならない。

 井手英策氏は「連帯共助」(子育て、教育、医療、介護など「ベーシック・サービス」の給付)を提唱している(注⑨)。また、高齢者が働きやすい雇用環境などを整備することも大切だろう。いずれにしても「いかなる社会を構想するのか」がはじめに問われなければならない。政治家や官僚に任せきりにするのではなく、出来るだけ多くの国民がなんらかの方法で議論に参加し、関心を抱き続けなけらばならない。もしそうしないのなら、現状に甘んじるしかない。
 国債の大量発行による経済対策、長時間労働や非正規雇用の拡大などでは、激変する時代を乗り切ることはできない。子や孫の世代が自分たちで新しい時代を切り拓くことができるような社会にすることも、私のようなシニア世代の役割であろう。
 
<注>
①金融庁事務局説明資料「高齢社会における資産形成・管理」報告書(原案)。5月22日公表の「原案」は、6月3日公表の「最終版」で(なんらかの圧力により)「表現」が一部修正された。具体的には、年金水準の「実質的な低下」から、「今後調整されていく」など。
②岡田有花氏によると、「自助に期待するなら年金徴収をやめろ」という批判もでているという。考えようによっては、金融庁は事実を隠さないだけましであろう。なお引用は注⑥による。
③朝日新聞、2019年5月15日
④日本の投資信託は、アメリカと比べて明らかに販売手数料(購入時)も信託報酬(管理手数料)も高すぎる。金融庁は、手数料が高いわりに実績の悪い投資信託をたくさん売っている金融機関に、警告を発している(Newsweek、2018年11月9日)。もし資産運用の経験が乏しいのなら、「老後のための投資はNG」。また個人年金保険なども要注意。リスクをよく知ることが肝要。人任せの投資では、思わぬ高額の手数料を取られ、損失を招きかねない。荻原博子『投資なんか、おやめなさい』(2017年)を読んでからでも、投資は遅くはない。
⑤吉見俊哉『平成時代』2019年。第1章、第3章、おわりに、も参照したい。
⑥城繁幸『若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来』2006年
⑦日本銀行金融広報中央委員会の「家計金融行動調査」(2016年発表)によると、金融資産がない世帯が増加しており、「2人以上世帯で3割強、シングル世帯に至っては、5割近くは金融資産が」ないという(大樹生命=日本生命グループのホームページ)。
⑧明石順平『データが語る 日本財政の未来』第9章、2019年
⑨井手英策、今野晴貴、藤田孝典『未来の再建――暮らし・仕事・社会保障のグランドデザイン』2018年。ベーシック「インカム」ではなく、ベーシック「サービス」の提供を提唱している。ただし増税が前提となっているので、反対意見もある。この提案の是非は今は問わない。日本では、政府や政治家への国民の信頼度がきわめて低い(注⑩)。このことが、増税に対する抵抗感をますます強くしている。さまざまな議論を積み重ね、(たいへん難しいが)国民的合意を得て、税制度や財政、社会保障、選挙制度などのあり方を決めるべきであろう。
⑩DIAMOND online「日本国民の政治家への信頼度はなぜ世界最低レベルなのか」(2017年2月1日)と、舞田敏彦氏のブログ「データえっせい」~「若者の政府不信の国際比較」(2015年10月17日)の記事は、いずれも「国際共同意識調査」(ISSP)に基づいて書かれている。
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コメント

こんにちは

国庫に蓄えられる財政を、諸政策に用いる財源を「借金」で
賄っている。
それは本来異常なことであると家庭に置き換えれば容易に
想像し得ることなのに、国も国民もそれに慣れすぎてしまいました。
「大丈夫」という安易な決めつけが決定的な破滅を招いたのは、
8年前にも経験済みのハズ。

「破滅的未来」を避けるためにも人それぞれが想像力と
創造力を駆使し成長を試みるとともに、国には財政健全化と
貯蓄体質への転換を望みます。

ac802ftkさん、こんばんは。

歴史にifはありません。
ですが、平成時代の経済停滞を大量の国債発行で乗り越えようとしなかったらどうだろう。そして、経済成長だけが唯一の解決方法ではないと考えたらどうたっただろう。
たとえば、景気対策は最小限にするが、先端科学技術の発展・導入に努めたり、産業構造の転換を容易にするための政策を行っていたらどうだろう。
非正規雇用は導入せず、転職が容易になるような雇用環境の整備、転職をする人たちのための生活保障などをしていたらどうだろう。
若者には、返済不要の奨学金や、海外留学の奨学金をだし、国内外で学んでもらう。
これらの政策であれば、巨額の国債発行は避けられたはず。
たとえ、結果が同じでも(経済停滞を解消できなかったとしても)、年度ごとの、巨額の財政赤字は発生せず、次世代の負担は軽減できたはず。
次世代が活躍できる環境の確保を最優先にしていたら、どうだろう。
歴史にifはありません。厳しい財政事情のなかで、どのような日本社会を築くのか、みんなで考えるしかないようです。
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