漢字廃止とローマ字

1.国語表記と漢字
日本語の表記には、漢字・仮名文字・算用数字(アラビア数字)のほか、補助的にローマ字を用いている。漢字を「文字」として認識したのは紀元3世紀ごろ(邪馬台国の時代)のこと(注1)。仮名文字を使用するようになったのは平安時代。算用数字は、「江戸末期に一部で使われ始め、明治初期に学校教育とともに普及した」(注2)。ローマ字の使用は「16世紀後半、室町時代末」のこと。来日したイタリア・ポルトガルの宣教師たちが日本語の表記に用いている(注3)。他方、漢字を廃止し、仮名またはローマ字を国字とする考え方は幕末・維新の頃からあり、また明治時代から「漢字節減運動」や「漢字制限運動」も展開されてきた(注4)。第二次世界大戦後も、GHQ([連合国軍最高司令官]総司令部)による「日本語ローマ字表記計画」があり、日本人の著名な学者・小説家や、日本の新聞社が漢字廃止に賛成している。

2.漢字廃止とローマ字
こんにち「漢民族を主な住民としていない国で漢字を使っているのは日本だけであり、朝鮮半島およびベトナムではすでに漢字の使用は事実上消滅している」(注4)。長くなるがWikipediaの「漢字廃止論」(注4)より、GHQによる「日本語ローマ字表記計画」を引用してみる。

「太平洋戦争終結後、1948年(昭和23年)に『日本語は漢字が多いために覚えるのが難しく、識字率が上がりにくいために民主化を遅らせている』という偏見から、GHQのジョン・ペルゼルによる発案で、日本語をローマ字表記にしようとする計画が起こされた。そして正確な識字率調査のため民間情報教育局は国字ローマ字論者の言語学者である柴田武に全国的な調査を指示した(統計処理は林知己夫が担当)。1948年8月、文部省教育研修所(現・国立教育政策研究所)により、15歳から64歳までの約1万7千人の老若男女を対象とした日本初の全国調査『日本人の読み書き能力調査』が実施されたが、その結果は漢字の読み書きができない者は2.1%にとどまり、日本人の識字率が非常に高いことが証明された。柴田はテスト後にペルゼルに呼び出され、『識字率が低い結果でないと困る』と遠回しに言われたが、柴田は『結果は曲げられない』と突っぱね、日本語のローマ字化は撤回された。」

日本語のローマ字表記には次のような欠点がある。ローマ字は「漢字に比べ、読むのにはるかに時間がかかる」(注4)。また日本語をローマ字で表現すると、どうしても「長くなる」。「同音異語の言葉をどうしたら区別できるか」などという問題もある(注5)。江戸時代の人々は、昌平坂学問所(官立)や藩校、私塾、寺子屋(庶民)などで教育を受けていた。幕末の日本人の識字率はとても高く、日本語のローマ字化はそう簡単なことではなかった。上記の「識字率調査」(1948年)でも、「全国平均が78パーセント」という高得点であった(注5)。こうした日本人の「識字率の高さ」が、幕末・維新以降に、英・仏による植民地支配を防ぎ(注6)、日本語のローマ字化を阻止した、と言っていいかもしれない。

ひるがえって、今日の、日本の教育の現状をどう考えるか?「子供の6人に1人が貧困状態にある」(日本経済新聞、2016年1月8日)。「経済協力開発機構(OECD)は15日、2013年の加盟各国の国内総生産(GDP)に占める学校など教育機関への公的支出の割合を公表……。日本は3.2%で、比較可能な33カ国中、最下位のハンガリー(3.1%)に次ぐ32位」(日本経済新聞、2016年9月15日)。「海外留学者数、加盟国中ワースト2位 『内向き』志向が原因?(OECD報告書『図表でみる教育2013年版』)」(The Huffington Post、2013年7月15日)。「日本の科学研究はこの10年間で失速している――。英科学誌「ネイチャー」が23日付の最新号で日本の科学力の低下を指摘する特集を掲載した。」(日本経済新聞、2017年3月26日)。……

(注1)「漢字文化資料館」(大修館書店Webサイト)
(注2)蘭学入門書の、大槻玄沢著『蘭学階梯』(らんがくかいてい)第2巻(1783年)において、アラビア数字が紹介されている(ブリタニカ国際大百科事典)。次のWebサイト1Webサイト2も参照のこと。
(注3)「日本語におけるローマ字の歴史」(Webサイト)
(注4)「漢字廃止論」(Wikipediaより)
(注5)「『疾病』誤読、日本語ローマ字化阻止」(Webサイトより)
(注6)フランスは幕府を、イギリスは薩長を支援
幕末、幕府はフランスの協力を得て幕政の立て直しを図ろうとしていた。一方、薩摩藩は薩英戦争で攘夷が不可能なことを知ると、イギリスに接近し、武器の輸入や洋式工場の建設などの改革を進めた。こうして「イギリスとフランス両国は対日政策で対立することになり、朝廷・雄藩と幕府の対立と絡みあって外国勢力の介入の危険が高まった」(『詳説日本史研究』山川出版社)。

<参考>文化庁「国語施策百年史」(Webサイト)
斎藤康雄「識字能力・識字率の歴史的推移―日本の経験」(PDF)
角知行「『日本人の読み書き能力調査』(1948)の再調査」(PDF)
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Author:yamashiro94
東京都内、多摩地方、近県でカメラを持って散策しています。旅行・歴史・地理・文学・音楽などから最近気になったことまで、何でもとりあげています。写真なしの場合もあります。上の写真はマレーシアのクアラルンプール駅。2007年撮影。

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